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モテる女のあいうえお|さしすせその違いと使い分け

「今日の子、感じよかったんですけどね」

交流会の片づけをしていたら、残っていた男性参加者がぽつりとこぼした。会話は途切れていなかったし、笑い声も聞こえていた。なのに連絡先は交換していないという。

理由を聞いたら、

「たぶん、誰に対してもあれなんだろうなって」

彼女は、さしすせそが完璧だった。さすが、すごい、センスいい。全部きれいに入っていた。入りすぎていた、と言うべきかも。会話は温まったのに、熱は残らなかった。この落差を現場で何度も見てきた。

目次

あいうえおには三つの流派があって、みんな別のものを見ている

モテる女のあいうえおって、解釈がまるで違う。

ひとつめは甘え型。わがままだけど憎めない、少し振り回す方向のやつ。ふたつめは感謝と共感型で、ありがとう、いいね、うれしい、といった柔らかい語彙が並ぶ。三つめは性格の共通点をまとめたもので、自分から遊びに誘える、笑顔が絶えない、といった行動の話になる。

同じ名前で全然違う三つが流通しているせいで、読んだ人が「で、結局どれ」と迷子になる。ここを整理しないまま真似すると、たいてい事故るんです。

私が運営してきたイベントの現場で、実際に空気を動かしていたのは一つめと二つめの中間あたり。感情を自分の側から差し出すタイプの言葉だった。

現場で効いていた、あからおまで

あ 会いたかった

再会の一言。会いたい、より一段強い。前から思っていた時間の厚みが乗るからね。

三回目の参加だった女性が、初回で少し話しただけの男性に「あ、会いたかった人だ」と言った瞬間、彼の背筋がふっと伸びたのを覚えている。あれは見ていて分かりやすかったなあ。数分後にはもう二人で飲み物を取りに行っていた。

ただし初対面で使うと重い。二回目の顔合わせが最短ラインだと思っておくといい。

い いいの?

奢られたとき、送ってもらうとき、席を譲られたとき。遠慮と喜びが同時に出るこの一言は、受け取り上手の合図になる。

反対に、当たり前の顔でスッと受け取る人は損をしている。バーベキューの回で、会費を多めに出した男性に対して無反応だった女性がいてね。彼、その後ずっと別のテーブルにいた。悪気があったわけじゃないんだろうけど、受け取り方って想像以上に見られてるんだよね。

う うれしい

感情の直球。技巧はゼロ。だからこそ、ごまかしが効かない。

三十代前半の男性が言っていた話が忘れられない。デートで水族館に連れて行ったら、彼女がイルカを見ながら小さく「うれしい」と言ったらしくて。「褒められたわけじゃないのに、あれで決まりました」だってさ。評価じゃなくて、感情。ここが分かれ目になる。

え えー!

驚きのリアクション。声のトーンが上がる、目が丸くなる、身体が少し前に出る。あの一連の反応が、相手の話に価値をつける。

うまい人は、驚いたあとに必ず質問を足す。「えー!それどうやって覚えたの」まで行って、ようやく会話が転がりだす。驚きっぱなしで止まると、そこで話は行き止まり。

お お願いしてもいい?

頼る、という行為そのもの。瓶の蓋、上の棚の紙皿、駅までの道案内。内容はなんでもよくて、頼られた事実が効く。

ハロウィンの回で、飲み物のケースを持ちかけて「これ、お願いしてもいい?」と男性に渡した女性がいた。彼、そのあと三十分ずっと彼女の近くで動いていた(笑)。単純だなあと思うけど、頼られた人は自分の役割を見つけると居場所を確保しにいく。そういう性質がある。

さしすせそとあいうえおは、主語が違う

さしすせそを並べてみると、さすが、知らなかった、すごい、センスいい、そうなんだ。五つとも主語は相手なんだよね。相手を測って、評価して、上に置く言葉。

いっぽうのあいうえおは、会いたかった、いいの、うれしい、えー、お願い。全部、主語が自分。自分の感情や状態を差し出している。

評価は誰にでも配れる。感情はその場でしか出ない。冒頭の男性が感じた「誰にでもあれなんだろうな」の正体は、たぶんこれ。褒め言葉には固有名詞が入らないんです。

じゃあ使い分けはどうするか

温度で決まる、と考えると迷わなくなる。

出会って一時間以内、名前と職業しか知らない段階では、さしすせその安全性が効く。距離を詰めすぎないし、目上の相手にも職場でも成立する。防御力が高い。

二回目に会う、二人で会う、そういう段階に入ってからがあいうえおの出番。自己開示は距離が縮まった器がないと、ただこぼれるだけ。

やりがちな事故がある。二十代後半の女性が、二回目のデートの冒頭でいきなり「ずっと会いたかった」と伝えたら、相手が半歩下がったらしくて。「重いというより、テンポが合わなかった」と本人も振り返っていた。はぁ…惜しい。言葉は正しくて、温度だけが早かった。

混ぜ方にもコツがあってね。褒めたあとに自分の感情を足すと、評価が体温を持つ。「さすが。私それ聞いて、ちょっと悔しくなった」みたいな。相手の話に自分が動かされた事実まで見せると、返事が明らかに長くなる。

かきくけこ、はひふへほも押さえておく

かきくけこは、かっこいい、きれいだね、クラクラする、結構鍛えてるね、今度ね。恋愛前提の距離感で、ボディタッチや期待の持たせ方がセットになる。使う相手を選ぶ、少し攻めた並びです。

はひふへほは方向性が違って、華がある、品がある、分別がある、変化がある、ほっとけない。会話術じゃなくて在り方の話。言葉で操作する余地がないぶん、時間はかかるけど剥がれない。

なぜこれが効くのか

心理学の世界では、自己開示には返報性があると説明されることが多い。片方が内面を見せると、もう片方も同じ深さで返したくなる。あいうえおが効いているのは、この扉を先に開けているからだと考えられる。

さしすせそが機能する理屈も似た系統にあって、承認された相手は好意を返しやすい。ただ、褒め言葉には副作用がある。評価されている、と感じた瞬間に、品定めされている感覚が混ざることがあるんです。年上の男性が若い女性から「さすが」と言われて、微妙な顔をする場面を何度か見た。上下が逆転するからだと思う。

このあたり、条件によって出方が変わるので言い切りはしないでおく。

あざといと言われる人の共通点

三つに集約される。タイミングが早い、語彙がループする、褒めたあとに質問が来ない。

二つめが特にきつい。同じ回で「すごい」を四回聞いた女性がいてね。三回目あたりから、男性の返事がじわじわ短くなっていった。相槌がテンプレだと気づかれた瞬間、会話は作業になる。あの空気の冷え方、けっこう堪えるよ。

逆に、まったくあざとく見えない人もいる。共通していたのは、褒めた直後に必ず質問が続いていたこと。すごいで終わらせず、どこがどうすごいと思ったのかを言葉にして、その先を聞く。評価が感想に変わって、感想が会話になるよ。

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