イベントの片付けが終わって、会場の隅で紙コップを潰していたRさんが、誰にともなくこぼした一言が忘れられない。女の子にはめちゃくちゃ好かれるんだけどねぇ、と。三十代前半、その日も受付を手伝って、初参加の子に声をかけて、酔った人のカバンを預かっていた女性、後日届いた参加者アンケートの自由記述に、彼女の名前は三回出てきた。全部、同性から。
こういう人、サークルを続けているとほぼ毎回いる。人として好かれている量なら、その場で一番かもしれない。なのに恋愛だけ噛み合わない。しかも厄介なのが、直せる欠点が見当たらないところなんだよね。愛想が悪いわけでも、清潔感がないわけでもない。むしろ逆。だから改善のしようがなくて、静かに詰む。
同性が評価している軸と、異性の感情が動く軸は別物
同性の友人関係で高得点を取るふるまいと、恋愛感情が芽生える条件は、重なる部分もあるけれど一致はしない。
| ふるまい | 同性からの評価 | 異性側で起きること |
|---|---|---|
| 先回りして準備する | 頼れる人として評価が上がる | 入り込む余地がなくなる |
| 弱音を見せない | 大人で安定していると信頼される | 距離を縮める入口が消える |
| 相談に乗る | 安心して任せられる | 保護者役として固定される |
| 正論で返す | 議論相手として尊敬される | 甘えづらい相手になる |
| 自分の話をしない | 聞き上手だと好かれる | もっと知りたい対象になりにくい |
友情は信頼で成立する。恋愛感情は、そこに余白と揺らぎが加わったときに動きやすい。心理学でいう自己開示の返報性、要は自分の内側を少し見せた相手にこちらも見せたくなる働きがあって、これが親密さを段階的に上げていく。ずっと聞き役だと、この階段が一段目で止まったままなんだわ。
同性に好かれるのにモテない女性の特徴9つ
与えすぎて、受け取る側に回れない
ひとつ目、先回りして全部やってしまう。ボウリング大会で、Rさんは開始前にスコア表を配り終え、飲み物の注文をまとめ、遅刻者に道案内のメッセージまで送っていた。完璧。誰も彼女に何かをしてあげる隙がない。男性側は良くしてもらう一方で、返す場面がないと、その人との関係を自分ごとにしづらくなる。
ふたつ目、弱音を吐かない。二次会でしんどい話が始まると、彼女は必ず聞く側に回る。自分の転職の悩みは、その日結局一度も出てこなかった。
三つ目、相談される側で固定される。参加者のTさんは彼女のことを、サークルの相談窓口と呼んでいた。悪気ゼロの褒め言葉。でもその肩書き、恋愛のスタート地点からは一番遠い場所にある。
距離が縮まる手前で、毎回ブレーキがかかる
四つ目、好意を正論で受け止める。二十代後半のNさんは、男性から今日の服いいねと言われて、ユニクロですよ全部と即答した。本人は謙遜のつもり。相手は、あ、うん、で会話を畳んだ。
五つ目、好意のサインを笑いに変える。連絡先を聞かれた場面で、営業ですか(笑)と返す。場は和む。相手の勇気は行き場を失う。
六つ目、自分の話をしない。会話の九割を質問で埋める人、けっこういます。聞かれた側は気持ちよく喋る。喋り終わった後、その人のことを何も知らないまま帰る。
そもそも土俵に上がっていない
七つ目、女扱いを長く拒んできた。学生時代から言われ続けた姉御肌という評価を、褒め言葉として受け取り、期待に応え続けた結果、恋愛対象という枠から自分で降りた人。
八つ目、告白される前に距離を取る。いい感じになってきた頃に、急に返信が遅くなる。振られる痛みを先に回避している。
九つ目、恋愛に興味がないフリ。婚活っぽいの苦手なんだよね、と言いながら、参加費を払って毎回来ている。この矛盾に本人が一番気づいてる。
直せる欠点がない、が一番きつい
性格が悪いなら直せる。ズボラなら整えられる。人としては好きなんだけどね、という評価は、努力の向け先がないぶん、逃げ場がない。Rさんが紙コップを潰していたのは、たぶんそういう理由だったと思う。
背景として多いのが、長女や、面倒見役を長く担ってきた経歴。女子校で女同士の空気を読む筋肉だけが鍛えられた人も。過去に恥ずかしい思いをして、以来、期待しないことで自分を守る癖がついた人もいる。愛着スタイルの研究でいう回避的な傾向に近い状態で、親密さの手前で自動的にブレーキが踏まれる。本人の意思とは別のところで作動するから厄介なんだよね。
隙がないというのは能力じゃなくて、防具。そう捉え直すと、話が少し変わってくる。
自分を殺す方向のモテ努力は、だいたい続かない
サークルには、急に甘え声を練習してきた人がいた。二回で辞めた。しんどいから。
無理に高い声を出す、興味のない車の話に相槌を打つ、料理できないフリをする。この手の擬態、短期的には反応が返ってくることがある。ただ、素の自分を出した瞬間に相手が戸惑うので、続かない。しかも本人の自己肯定感が削れる。
やることは逆で、防具を全部脱ぐ必要はない。留め金をひとつ外すだけ。
現場で変化が起きた人の、小さすぎる行動
Nさんが変わったきっかけは、荷物を持ってもらったことだった。それだけ。飲み会帰り、駅までの五分間、紙袋を渡した。ありがとう助かった、と伝えた。相手の男性が、めちゃくちゃ嬉しそうにしていたのを覚えてる。
頼るというのは、相手に貸しを作らせる行為でもある。返報性の原理として知られている通り、人は何かをしてあげた相手に対して好意を強めやすい。与える側にいるほど好かれる、という直感は、恋愛の初期段階では逆に働くことがある。
もうひとつ、Nさんがやったのは感想を言うこと。前まで、面白いですねと相手を評価する側にいた。それを、私はこういうの苦手で羨ましい、に変えた。評価から自己開示へ。たった一段の変更で、会話の折り返し方が変わったらしい。
三つ目が、好意を笑いに変えないこと。褒められたら、ありがとう嬉しい、で止める。ネタにしない。彼女いわく、最初の数回は身体がむずむずして無理だった、と(笑)。半年後、そのむずむずに耐えられるようになった頃、交際が始まったと連絡が来た。
場面ごとに、詰まるポイントが違う
職場だと、仕事のできる人という評価が強すぎて、業務時間外の顔が想像されない。ランチや飲みで、仕事に関係ない失敗談をひとつ出しておくと、印象の階層が増える。パン作りに三回失敗した話とかで十分。
友人の紹介では、気を遣いすぎて場を回す係になりがち。紹介者と一緒に段取りを仕切ってしまうと、その日は主催者として終わる。ここは意識的に、何も決めない側に座る。
マッチングアプリでは、初回で相手のことを聞きすぎるパターンが目立つ。面接みたいになる。プロフィールも、自立していますや趣味は仕事ですと書くと、それを補強する人しか来ない。落ち着いた文面の中に、ひとつだけ抜けている情報を残しておく。方向音痴で毎回集合場所を間違える、みたいな、生活感のあるやつ。
もう三十代だし、という不安について
年齢の話になると、みんな急に声を落とす。しーん、となるあの空気。
ただ、現場で見ている限り、三十代以降で交際に至る人は普通にいる。共通していたのは、外見を変えたことではなく、頼る回数が増えたこと。あと、感情を口に出す量が増えたこと。二十代のノリで押し切る必要は、まるでない。
女友達との関係を失うのが怖い、という声もよく聞く。これは実際、少し変わる。相談窓口をやめると、来る連絡が減る人はいます。でもRさんの場合、離れていったのは彼女を便利に使っていた数人だけだった。残った友人は、彼女が弱音を吐くようになってから、むしろ距離が近くなったらしい。私にも言えなかったんだね、とぽろっと泣かれた、と本人が笑いながら話していた。
同性から好かれる力は、恋愛の邪魔をしていない。出す場面と、出し方の順番がずれているだけ。準備を八割で止めて、残り二割を誰かに預ける。それだけで、目の前の人の表情が変わる瞬間があるはず。Rさんは今、そのサークルには来ていない。理由は察してほしい。

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