去年の秋、社会人イベントのオフ会に参加してくれた女性の話を、今でもよく思い出す。
20代後半の彼女は、同い年の男性を4回のイベントを通じて少しずつ意識し始めていた。ただ、相手はとにかく人当たりがよくて、誰にでも笑顔で接するタイプ。イベント中ずっとグループ全体にしか話しかけなかった。帰り際の「今日楽しかったです」も、おそらく参加者全員に言っていたし、連絡先を交換してからも最初の数日で返信が遅くなっていった。あ、これは脈なしだわ、と彼女の中でそう決まった。
一瞬の出来事だった。
問題はその判断が正しかったかどうかじゃなくて、その後に何が起きたか、という話だ。彼女はそこから少しずつ心を閉じていって、会話も短くなって、目を合わせることもなくなっていった。次のイベントで顔を見ても、もう脈なしってわかってるし、という顔で普通に接して…。
正直言って、そのくらいのタイミングで彼の態度が変わり始めていたんだよねぇ。
声をかけてくるようになって、LINEも早く返ってくるようになって。でも彼女はもうシャッターを下ろしてたから、そのサインが届かなかった。気づいた頃には、彼は別の子と付き合い始めていた。
ふたりが交際に至らなかった理由は、相手の気持ちが届かなかったからじゃない。彼女が早々に終わりと決めてしまったから、だと今でもそう感じている。
脈なしと判断するとき、心の中で起きていること
脈なしと自分で決めるとき、そこには必ずある種の自己防衛が混じっている。
傷つく前に、傷つく可能性を先に潰しておく作業。期待して、外れて、また傷ついてというサイクルを何度か経験すると、人は無意識のうちに「最初から期待しない」ことを選ぶようになる。心理学でいう学習性無力感に近い状態で、似たような経験が重なることで「どうせうまくいかない」という前提が染み付いていく。
自分を守っているようで、実はチャンスを手放し続けているという矛盾。
社会人イベントを運営して何百人もの参加者を見てきた経験からいうと、脈なしと決めつけやすい人には共通のクセがある。相手の一言や一回の行動で全体を判断してしまう。LINEの返信が遅いと即「興味なし」に分類する。飲み会で名前を呼ばれなかっただけで、眼中にないんだな、と結論づける。
でも人ってもっとバラバラで、タイミングによって全然違う反応をするし、好きな相手にむしろ素っ気なくなるタイプもいるしねぇ。感情がストレートに出る人ばかりじゃない。
一部の情報で全体を判断するこのクセは、認知心理学では確証バイアスと呼ばれている。自分に都合の悪い解釈を優先してしまう傾向のことで、脈なしと思い込んだ途端に、その後の行動も全部そのフィルターで見てしまう。どれだけ相手がサインを出していても、届かなくなっていく。
イベント後のグループLINEで名前を呼ばれたとき、「全員に言ってるだけ」と思う。二人でいるときに話しかけてきたとき、「ただの暇つぶしでしょ」と思う。何を見ても「脈なし」という答えしか出てこなくなるのは、フィルターがそう機能しているから、であって、現実とは別の話だったりする。
「どうせ自分には」という思い込みの正体
もうひとつ根深いのが、自己肯定感の問題だ。
「自分のことを好きになるはずがない」という前提を持っている人は、好意的なサインをすぐ社交辞令に変換してしまう。返信が早くなっても「このひとは誰にでも返事が早いんだ」と思う。向けられた笑顔も「愛想がいいだけ」に変える。
その瞬間、頭の中で起きていることはサインの否定じゃなくて、自分自身の否定だ。こんな自分が好かれるわけない、という自己像が、外から届く情報を書き換えてしまっている。
自分を低く見ている人ほど、好かれているという現実を受け取れない。本当にもったいない話なんだよなあ…。
加えてやっかいなのが、もやもやしたまま放置されるケース。脈なしとも脈ありとも決めきれずに、ただ不安の中で時間が過ぎていく。どうせ思い違いだろうし、と諦めつつも完全には諦めきれない。その中途半端な状態が判断力をさらに鈍らせていく悪循環がある。
あと一点、ここで触れておきたいのが「好き避け」という現象だ。
好きな相手を意識するあまり、むしろよそよそしい態度を取ってしまう人がいる。話しかけたそうにしているのに、近づいたら素っ気なくなる。目が合うと逸らす。グループでは盛り上がっているのに、二人になると急に口数が減る。これをそのまま受け取って「脈なしだ」と判断してしまうケースが現場でも本当に多い。実態は真逆のこともあるから、態度だけで判断するのには限界がある。
以前、イベントで知り合った男性が「あの子、俺のことが嫌いなのかと思ってた」と言っていた。ところがそのあと話してみると、相手の女性は彼のことを4回のイベントの中でずっと意識していたと言う。怖くて話しかけられなかった、と。当人同士が「脈なし」と思い込んでいる間に時間だけ過ぎていった、という話は、嘘みたいだけど実際に起きる。
気持ちが動いているときの、6つの変化
じゃあ実際に、相手の気持ちが変わり始めているとき、どんなサインが出るのか。
現場で積み上げてきた観察から見えてきたことを、順番に書いていく。
LINEの内容が変わる
スタンプだけ、短文だけだったものが、急に文章量が増えて質問まで返ってくるようになる。返信の速さより内容の変化の方が本音に近い。もっと話したいという気持ちが動いたとき、人は無意識に会話を引き延ばそうとするから。既読スルーが多かったのに突然の長文、みたいな変化があれば、何かが動いている。
グループでの立ち位置が変わる
意識し始めると、意外と無意識に近くに来る。なんとなくいつも近くにいるな、という感覚は、たぶんランダムじゃない。社会人イベントでも、仲良しが固まっていく中で一人だけ自分の方に引き寄せられてくる人は、他のスタッフからも気づかれることがある。
以前の話を覚えていて、聞いてくる
さらっと話したことを「あのときのやつどうなった?」と聞いてくる。これ、ぞわっとするやつ。脈のない相手の話を、人はそんなに細かく覚えていない。さりげなく記憶に残っているということは、それだけ意識している証拠だ。
他の異性の話を振ってくる
「最近気になってる人いるの?」と聞いてきたり、自分の恋愛状況をわざわざ話してくるのは、こちらの気持ちを確認したいか、自分を意識させたいかのどちらかに収まることが多い。唐突に元カレ・元カノの話をしてきたときも、状況を測っている可能性がある。
二人きりを嫌がらなくなる
最初は何人かで飲もうよという流れだったのに、ある時期から「今度二人でごはんでもどう?」に変わる。自分から提案してくるようになったら、気持ちが動いているサインとほぼ間違いない。断らなくなったことも、それ自体がひとつの答えだ。
表情が柔らかくなる
これは言語化しにくいんだけど、現場でずっと見ていてわかること。以前よりリラックスした顔で接してくれるようになったと感じたら、心の距離が縮まっている可能性がある。緊張→慣れ→好意という順番で感情は動くことが多いから、なんとなく打ち解けてきた気がするという感覚は、意外と正しかったりする。
ひとつだけ注意しておきたいのは、これらのサインは複数重なって初めて意味を持つということ。一個だけでは判断材料として弱いし、シャイな人や奥手な人はサインが弱くても気持ちがある場合もある。社交的な人は全員にそういう振る舞いをするから読みにくい。自分の判断に自信が持てないときは、信頼できる人に状況を話してみると、外からの目線で見えてくるものがある。
逆転告白は、タイミングより積み上げが先
よくある勘違いが、告白はタイミングが全てだという思い込みだ。
確かにタイミングは大事。でもそれ以上に、それまでに何を積み上げてきたかが先に決まる。ムードがいい日に告白すれば成功するという考え方は、少し楽観的すぎる。
脈なしからの逆転に成功した人たちに共通していたのは、告白の前に一対一で話す時間を作っていた、ということだ。グループの場でしか会っていない状況で急に気持ちを伝えても、相手の中でのその人のイメージが薄い。二人の時間がある程度あって、その上で気持ちを伝えた方が、受け取る側にとっても自然に落ちてくる。
イベントで知り合ったある男性の話をすると、気になっていた女性にごはんの誘いを3回断られていた。普通は諦めるっしょ。でも彼はイベントの場でちゃんと関係を育てていて、4回目の誘いで相手から「行きたい」と言ってきた。付き合うまでにさらに3ヶ月かかったけど、今でも続いているらしい。
彼が諦めなかったのは、断られることと脈なしを一緒にしなかったからだ。断られることは今じゃないというサインかもしれないし、そのときの相手のコンディションの話かもしれない。脈なしとは別の問題、ということを分かっていた。
告白のタイミングとして、ふたりで会った後の帰り際がうまくいきやすいという声は多い。楽しい時間が終わる直前の、あのじわじわと高まってくる感情の中で言葉にすると、相手に乗りやすい。その場で答えを求めず「考えておいて」という伝え方をした人もいる。それはそれで誠実な選択だ。
告白の言葉そのものに凝るより、その場に至るまでの関係に凝った方がいい。どれだけ気の利いた言葉を用意しても、相手の中にその人の実感が薄ければ、言葉は滑っていく。
もうひとつ見えてきたのは、告白を失敗した人の多くが「完璧なタイミングを待ちすぎた」ということだ。完璧な状況なんて来ない。完璧に見えるタイミングを待っているうちに、相手は別の人に気持ちが動いていく。ある程度のサインが重なったら、待ちすぎないことも大事だ。
思い込みを外すことの、ちょっとした怖さ
もしかして脈ありかもしれない、と思い始めること、これが一番難しいんだよね。
脈なしという結論の中にはある種の安心感があって、そこから抜け出すと期待と不安が同時に押し寄せてくる。その感覚が嫌だから、脈なしと決めたままの方が楽だったりする。傷つかないために、傷つく前に終わらせる。それはある意味、合理的な選択でもあるんだよねぇ。
でも、思い込みの中にいる限り、その恋愛はそこで止まる。動かなければ何も変わらないし、変わらなければ確実に終わる。
逆に言えば、思い込みを外して動いた人だけが、逆転というものを体験できる。うまくいかなかったとしても、少なくとも自分の手で結論を出せる。思い込みの中で機会を手放し続けるよりは、ずっといい。
恋愛って、相手の気持ちより自分の思い込みに負けることの方が、実は多い。脈なしと決めた瞬間から、その恋愛は自分で終わらせている。それは相手の話じゃなくて、自分の話だ。もったいないから注意してね!

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