会場の隅っこで、グラスをくるくる回しながら誰とも目を合わせない54歳男性、その日が初参加。その彼が半年後、同じ山歩きのサークルで知り合った女性と、毎週末ふたりで低い山を登るようになる。本人がいちばん、まさかそうなるとは思っていなかったんですよね。
社会人向けのイベントサークルを長く運営してきて、40代後半から60代の参加者も数えきれないほど見てきました。その現場で見えてきたことを、書いていきます。
出会いがないんじゃない
もう出会いなんてないよ、とこぼす50代の方は本当に多い。でも一人ひとり話を聞いてみると、出会いがゼロなわけじゃないんです。職場にも、習い事の教室にも、ご近所にも、人はちゃんといる。ただ、その一歩手前で足がぴたっと止まる。
若い頃みたいに勢いだけで動けない。失敗したときの恥ずかしさを、もう体が覚えてしまっているから。離婚や死別を経験した人なら、慎重になるのは当たり前。また傷つくくらいなら、このままでいいや
そう自分に言い聞かせて、壁になっているのは年齢じゃなくて、心のほう。
恋人がほしいのか、まずは友達からなのか
ひとくちに出会いを求める50代といっても、思い描くゴールは人によってけっこう違います。すぐにでも結婚相手を、という人もいれば、恋愛はまだ気が重いけど話し相手がほしいだけ、という人もいる。週末に一緒にごはんを食べる相手がいれば十分、という声も現場ではすごく多いんですよ。
ここを自分の中で整理しないまま婚活パーティーに飛び込むと、周りとの温度差でどっと疲れます。恋人候補をしっかり探したいのか、それとも同年代の友達の輪をまず広げたいのか。ぼんやりでかまわないので、今の自分の気持ちに正直になっておく。それだけで、選ぶべき場所がはっきり変わってきます。
なぜ50代の出会いは、趣味の場が一番うまくいくのか
たくさんの参加者を見てきて、いちばん自然に関係が育っていたのは、婚活専用の場ではなく趣味の場でした。理由は、はっきりしている。
まず、共通の話題が最初からそこにある。何を話せばいいのか分からない、という50代最大の難関を、趣味がまるごと飛び越えてくれるんです。陶芸の手元をのぞき込みながら、登った山の話をしながら、会話が勝手に転がっていく。沈黙が気まずくならない。これがどれだけ楽か。
そして目的をぼかせる。出会い目的です、と旗を立てなくていい。趣味を楽しみに来ただけ、という顔でいられるから、もし距離が縮まらなくても傷が浅くてすむ。プライドを守ったまま近づける、ずるいくらいやさしい入口なんですよね。
心理学に単純接触効果という言葉があります。同じ人と顔を合わせる回数が増えるほど、その人への好意が育ちやすい、というもの。週に一回の教室なら、ひと月で四回会える。婚活パーティーの一発勝負とは、積み上がっていく安心感がまるで違う。じんわり相手の人柄が見えてくるあの時間こそ、50代の恋にはよく効きます。
関係を縮めるもうひとつの鍵が、自己開示。少しずつ自分の弱さや過去を打ち明けられた相手に、人は心をひらいていく。趣味の場は、この自己開示がゆっくり進むのがいいところ。いきなり身の上話なんてしなくても、好きなものを並んで楽しんでいるうちに、素の自分がじわっとにじみ出てくる。作り込んだプロフィール一枚より、よっぽど雄弁。
会話が生まれて、男女のバランスもいい趣味
どんな趣味でもいいわけじゃない、というのも正直なところ。現場で男女比が極端に偏らず、自然に言葉が交わせていたのは、体を一緒に動かすものと、手を並べて動かすものでした。
社交ダンスは鉄板!手を取って組む時点で物理的に距離が近いし、初心者同士でつまずいて笑い合えるから、すぐに打ち解ける。料理教室や蕎麦打ちも、隣同士で作業しているうちに会話がほどけていく。登山やウォーキングのサークルなら、歩きながら横並びで話せるのがいい。正面で向き合うより、横に並んだほうが本音がぽろっと出る。現場をずっと見ているとよく分かります。
うちのダンスイベントの常連だった58歳の女性は、最初こそ足を踏んでばかりで恥ずかしがっていました。それが回を重ねるうちに教え合う相手ができて、気づけば打ち上げでいちばん笑っている人になっていた。技術より先に、人との関係のほうが踊れるようになっていたんですよね。
合唱、写真サークル、英会話のクラスあたりも、同年代が集まりやすくて居心地がいい。逆に、ひとりで黙々と打ち込む系の趣味は、腕は上がっても出会いには直結しにくかった。そこは割り切って選ぶのが正解かも。
公民館とカルチャーセンターという、地味だけど強い場所
お金をかけなきゃ出会えない、なんてことはありません。むしろ穴場は、いつも足元にある。
地域の公民館やカルチャーセンターの講座は、参加費が安くて、同世代がごろっと集まる。出会い目的でギラギラしている人が少ない分、空気が穏やかなんです。妙なプレッシャーがないから、初参加のハードルがぐっと下がる。区報や市報の片隅に小さく載っている講座一覧、あれ、宝の地図みたいなものなんですよ。まさか、と思うような地味な教室で素敵な人と知り合った話を、私たちは何度も聞いてきました。
顔ぶれが毎回ほとんど同じ、というのも実は強みになる。会うたびに少しずつ顔なじみになって、半年もすれば自然と立ち話ができる間柄になっている。派手さはないけれど、じわじわ効いてくる場所です。
楽しむが9割。出会いを前に出した人ほど浮いていた
ここは少し耳の痛い話かもしれない。出会いたい気持ちが強すぎて、それがそのまま顔に出てしまう人。残念だけど、いちばん遠回りになっていました。
以前、私たちのワイン会で知り合った50代の男性で、初対面の女性に開始五分で連絡先を聞いて回っていた人がいました。本人としては積極的にいったつもり。でも周りはそわそわし始めて、女性陣は静かに距離を取っていく。場の温度がすうっと下がっていくのを、運営として見ているのは正直つらかった…。
うまくいく人は、順番がまるで逆なんです。まずは趣味そのものを楽しむ。料理を覚えたい、ダンスをきれいに踊れるようになりたい。その背中に、人は自然と惹かれていく。出会いは、楽しんだ先についてくるおまけくらいの距離感。この順番を守れる人ほど、結局いちばん早く誰かと出会っていました。
また傷つくのが怖い、あなたへ
過去に離婚や死別をくぐってきた方ほど、新しい一歩がずしりと重い。それは弱さなんかじゃなくて、誰かをちゃんと愛した証拠だと思う。
だからこそ、何度も顔を合わせられる趣味の場が向いています。一回で相手を見極めようとしなくていい。何ヶ月か通ううちに、この人なら信頼できそうだ、と肌の感覚でわかってくる。焦らないことが、まわりまわっていちばんの近道だったりするから。
コーラスのサークルで知り合った56歳の女性のことも、よく覚えています。三年前にご主人を亡くされて、しばらく誰かと深く関わる気にはなれなかったそう。歌なら一人でも始められるしね、と軽い気持ちで入ってきた人でした。最初の数ヶ月は、休憩時間もぽつんと窓際に座っていた。それが半年、一年と通ううちに声をかけ合う仲間ができて、その輪の中に同い年の男性がいて…。今は二人で月に一度、小さな演奏会に出かけているそうです。歌いに来ただけだったのに、ねぇ。
それと、はじめの一回が誰だっていちばん怖い。会場のドアを開ける前、心臓がばくばくして、回れ右したくなる人は本当に多いんです。でも見ていると、初参加の人は思っているほど浮いていない。みんな自分のことで精一杯だから、新顔をじろじろ品定めしたりしない。最初の一回さえ越えてしまえば、二回目はうそみたいに軽くなる。あんなに緊張してたのが嘘みたい、ってあとでみんな笑うんですよ(笑)。

コメント