受付で名札を渡すとき、目が合わない人がいます。視線は足元、片手にはスマホ。
乾杯が終わっても、入口近くの壁から動きません。
今日こそ誰かと話して帰ってほしい…
名簿をめくりながら、毎回ひそかに願っています。
帰り際に声をかけると、返ってくる言葉は決まってこれ。
「結婚はしたいんです。でも、相手がいなくて」
はぁわかる。私も20代の頃、知らない人だらけの飲み会で唐揚げばかり食べていた側でした(笑)
いまは社会人向けイベントサークルの運営側。受付から会場の動きを眺めています。見えてきたことがひとつ。
相手がいないと悩む人の足が止まるのは、出会いの場に来る前じゃない。来た後なんですよね。
相手がいない人に足りないのは、出会いの数じゃない
結婚したいのに相手がいない、恋愛もうまく進まない
片づけの最中に本音を聞くと、出てくるのはもっと手前の話ばかりです。
自分は選ばれない側の人間なのか。恋愛を通らないと結婚にたどり着けないのが、しんどい。このまま一人で歳を重ねるのかな。
婚活パーティーは品定めされている気がして苦手、という声もよく届きます。条件で選ぶより、好きになった人と結婚したい。
独身でいる理由を尋ねる調査には、上位の常連になっている答えがあります。適当な相手にめぐり会わない。
ところが、結婚を望む人のうち相手探しで動いている人は2割ほど、という調査も。動かない理由の筆頭は、面倒だから。
責める話じゃありません。仕事終わりのくたくたの体で、初対面の人と笑顔で話す。そりゃ面倒だよね。
会場で見える、4つの止まり方
相手がいない、とひとくくりに語られますが、止まる場所は人それぞれ。
1つめは、話しかける回数が少ない人です。会場にいるのに、出会いゼロのまま帰っていきます。
2つめは、出会ってはいるのに誰も好きになれない人。
3つめは、いいなと感じた相手に次の一歩が出ないタイプ。傷つくのが怖くて、連絡先すら聞けません。
4つめは、なぜ結婚したいのかを聞かれて黙ってしまう人でした。
自分の止まり方がわかれば、やることは1つに絞れます。1つめなら座る場所、2つめなら採点の速さ。3つめは当日の夜に送る一文で、4つめは理由の1行。
全部を一気に直そうとした人ほど、3か月後には姿を見なくなる…(泣)
結婚できない人の特徴は、性格より当日の動きに出る
結婚できない人の特徴というと、ネガティブだの理想が高いだの、性格の話が並びがち。
正直言って、テーブルを回って見るかぎり性格はほぼ関係ありません。明るい人でも止まるし、口下手な人がいつの間にか交際まで進むこともある。
差がつくのは、当日の体の動かし方でした。
友人の隣と壁際から動かない
2人組で来た女性が、最後まで友人とだけ話して帰る。これ、本当に何度も見てきた光景。
本人たちは楽しそう。ただ、周りからは話しかける隙がまったく見えないんです。
運営を始めた頃の私は、そういう人に、もっと積極的にと声をかけていました。ある日、30代前半の会社員の女性に言い返されます。
「それができたら、ここに来てません」
ぐさっと刺さった。その通りすぎて、何も返せなかったなあ。
4回目、彼女は突然一人で現れました。最初の10分で、隣の席の人に飲み物の話をふる。その日は3人と話し、うち1人と後日ごはんに行ったそうです。
変えたのは性格じゃなく、座る場所。
人は顔を合わせる回数が増えるほど、相手に親しみを持ちやすくなります。心理学でいう単純接触効果。受け身で待っていると、この回数がいつまでも増えません。
相手からアプローチがあれば考える。恋愛の意識調査で、最も多く選ばれた答えです。だからこそ、先に一言かけた人が目立つ。
開始5分で採点を終えてしまう
出会いはあるのに相手がいない人は、判定がとにかく早い!
声が小さい、靴がくたびれている、店選びが微妙。減点が3つ並ぶと、もう相手の話を聞いていません。
5分やそこらで、人の何がわかるんだろう?
人の脳は、良い情報より悪い情報のほうに強く反応する。初対面で欠点ばかり目につくのは、目が厳しいせいじゃない。生まれつき入っている初期設定、というやつです。
ある男性は、会う人ごとに元恋人と比べてしまう。笑い方が違う、返信の速さが違う。あの人を超える人はもういない気がする、と駅までの道でこぼしていたっけ。
相手に望むことを挙げてもらうと、普通の人でいいんです、という答えが多い。その普通を紙に書いてもらったら、項目は10を超えました。年収、身長、会話の面白さ、清潔感、休日の過ごし方。
書いた本人が、いちばん目を丸くしていた。口にしない条件は、冷蔵庫の奥の調味料みたいに増えるんだよなぁ。
褒め言葉を打ち返してしまう
素敵な時計ですね、と言われて、いえいえ安物です、と返す。謙遜のつもりでも、相手は次の言葉を失います。
自分なんて、と先に線を引く人ほど、この返しが3回は続く。人は自己評価に合う言葉のほうを信じやすい。自己確証と呼ばれる心の働きです。
褒められたら、ありがとうございますの一言で受け取る。それだけで会話が1往復ぶん伸びました。
繁忙期が明けたら行きます、と言って半年来ない人も、同じ場所で止まっているのかも。
連絡先を交換した夜で止まる
いい雰囲気で連絡先を交換したのに、その先が続かない。翌週に聞くと、向こうから来なかったので、という返事でした。
まさかの、相手も同じ台詞。
え、2人とも待ってたの?
断られるのは怖い。誰だってそう。
私自身、お似合いに見えた2人を強引に同じテーブルへ案内したことがあります。両方から返ってきたのは苦笑い。
(うわ、完全に余計なことをした)
あの時の空気、思い出すだけで耳が熱くなる。背中を押したつもりが、ただのお節介。
以来、誘いは軽いほど通ると伝えています。今日話していたお店、来週行きませんか。この一文をその日のうちに送った人から、2回目の約束が決まっていきます。
通う場所が合っていないだけの人もいる
職場が同性ばかり。住む町に同年代の独身がほとんどいない。
こういう人は特徴うんぬんの前に、会う機会そのものが足りていません。自分を直すより、通う場所を変える。順番はそっちが先でしょ。
好きな人ができないまま結婚したい、は矛盾しない
結婚はしたい、でも好きな人ができない。こう打ち明ける人は、なぜか申し訳なさそうな顔をします。
おかしくないですよ、全然。
ときめきが来ない人に起きていること
好きな人ができない理由を一人ずつ聞いていくと、いくつかに分かれます。
一人の暮らしが快適すぎて、誰かを入れる隙間がない人。過去に傷ついて、近づかれると無意識に距離を取る人もいる。愛着理論で回避型と分類される反応に近い。
選べる相手が多すぎて、決められなくなった人もいました。アプリで100人をスクロールしたあとだと、目の前の1人がかすんで見える。選択肢が多いほど満足しにくくなる。選択のパラドックスそのままの光景です。
意外と多いのが、恋愛感情が湧きにくい気質の人。欠陥でも何でもなく、ただの個性。
恋愛と結婚では、見る場所が違う
恋愛の入口で効くのは、ときめきや見た目の好み。結婚生活を支えるのは、約束を守るか、機嫌の悪い日にどう振る舞うかです。
長く続く関係を調べた研究でも、信頼と尊敬が満足度に結びつくと報告されてきました。大恋愛ができない人は結婚に向かない、という話にはなりません。
熱に浮かされずに相手を見られる。それ、強みじゃん。
恋愛結婚にこだわるかどうかも、ここで答えが出ます。好きになってから結婚を考える道と、結婚を前提に会ってから好きになる道。どちらを通っても、着く場所は同じ。
付き合ってから好きになれた人、なれなかった人
30代後半の男性がいました。恋愛経験はほぼなし。初参加の日、自己紹介の声が震えていたのを覚えています。
彼が決めていたルールは1つだけ。嫌じゃなければ3回は会う。
1回目は緊張で料理の味がしなかった、と笑う。2回目、相手が店員さんに丁寧にお礼を言う姿を見た。3回目の帰り道、まだ帰りたくないなと気づく。
好きという感情は、後からじんわり追いついてくることがあるんですね。
うまくいかなかった例もあります。違和感に目をつぶり、条件だけで交際を決めた女性は、2か月で別れました。
会うたびに体がこわばる相手とは、回数を重ねても距離が縮まらない。嫌じゃない、と、我慢できる、は別物。ここだけは取り違えないでほしいです。
恋愛が苦手な人が、結婚相手に近づく進め方
相手が見つかった参加者には、共通する動きが4つありました。
同じ顔ぶれに何度も会える場を選ぶ
1度きりの大人数パーティーは、初対面の瞬発力がある人の舞台。恋愛が苦手なら、同じ顔ぶれに繰り返し会える場が合います。
趣味の集まり、少人数の定例イベント、結婚前提で紹介を受けられる相談所。回数が味方になる場所なら、口下手でも不利になりません。
アプリは母数が多いぶん、文章で自分を出せる人向きです。時間が取れない人には、結婚の意思が最初からわかる場が近道。
1回の場で3人に、自分から一言
長い会話はいりません。その飲み物、何ですか。これで足ります。
質問を1つ、自分の話を1つ。交互に出すと、聞き手も同じ深さで返してくれるものです。自己開示の返報性という、人づきあいの法則。
面白い話をしようと力む人ほど、沈黙に耐えきれず早口になっていく。聞く側に回った人のほうが、もう一度話したい相手として名前が挙がります。
3回会うまで合否を出さない
1回目に見えるのは、相手の緊張だけ。2回目でやっと、普段の話し方が出てきます。
3回目に確かめるのは3点。沈黙が苦しくないか、お店の人や他人にどう接するか。もう1つは、意見が割れたときに話し合いになる相手かどうか。
ときめきの有無は、項目に入れなくていいよ。
結婚したい理由を1行で書く
いい人がいれば、と話す人は、結婚したい理由を聞かれると口ごもります。
安心したい、子どもがほしい、週末に誰かとごはんを食べたい。どんなに小さな理由でも十分。
1行で書けた人は、相手に求める条件が3つほどに減りました。理由が決まると、話すときの目線がまっすぐになる。あれは見ていて不思議。
会場でよく聞かれること
恋愛経験がないまま結婚できるのか
できます。経験の数より、同じ相手と何回会えるか。うまくいった人を見ていると、差はほぼそこ。
慣れていない人の誠実さは、相手にちゃんと伝わっていますよ。
好意を向けられると冷めてしまう
蛙化現象、という名前がついています。追う側のときは平気なのに、振り向かれた途端に気持ちが引く。
自分を低く見ている人ほど起きやすい、と指摘されています。こんな自分を好きになる人はおかしい、という理屈が知らぬ間に働くらしい。
対処は地味です。冷めた瞬間に結論を出さず、もう1回だけ会う。
見た目はどこまで関係するのか
会って最初に目が行くのは、顔立ちより清潔感と表情でした。髪、爪、靴。高い服より、しわのないシャツ。
笑うと目尻が下がる人の周りには、自然と人が集まってきます。
面倒で、申し込みボタンが押せない
押せなくて普通。行く前の気の重さは、何度も来ている人でも変わらないと聞きます。
助けになったのは、予定を小さく切ること。月に1回、2時間だけ。帰る時刻を先に決めて参加した人は、次の回も顔を見せてくれました。
理想は下げたほうがいいのか
下げるより、減らす。10個の条件を少しずつ緩めても、会える相手はさほど変わりません。
譲れない3つを残して、残りは会ったあとで考える。結局、これで交際に進んだ人を何人も見てきました。
選ばれない側の席は、会場のどこにもなかった
人だかりができる人と、交際に進む人は別
周りに人だかりができる参加者が、どの回にも1人か2人います。華やかで、話もうまい。
なのに、交際の報告をくれるのは別の人たちなんです。連絡先を10人ぶん集めた人より、1人と3回会った人。
選ばれない側、なんて席は会場のどこにも見当たりません。あるのは、まだ誰とも2回目を迎えていない席。
壁際にいたあの人の、その後
壁際にいたあの人は次の回、入口から2つめのテーブルに座っていました。隣の人に、名札の字がきれいですねと話しかけている。
おお、やった…!
受付の陰で、思わず小さくガッツポーズ。
たった一歩ぶん、場所が変わっただけです。相手がいない日々が動き出すのは、いつもそのくらいの距離からなんです。

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