二次会の端っこで、ユウキさんがビールを持ったまま動かなくなってた。春に、3年付き合った彼女と別れたばかり。別れて正解だったのか、まだわからないんです、と言う。何があったのか聞いたら、喧嘩のたびに謝るのは自分で、でも何に謝ったのか思い出せない、と。この話、うちの会場で何回聞いただろう。
社会人向けのイベントサークルの受付と二次会だけで、数えきれない恋の始まりと終わりに立ち会ってきた。その中でとくに手こずるのが、被害者意識が強い人が絡んだ恋なんだよね。付き合ってる側は少しずつ削られていくし、本人は本人で、なぜか毎回同じ終わり方をして泣いてる。しかも、自分がその渦の中心にいることに気づいてない。
恋愛の現場で見えた、被害者意識が強い女の特徴
自己紹介の時点で、ほぼわかる。
うちのイベントは、最初にテーブルごとに軽く自己紹介をするのね。そこで元カレの話から入る人がいる。前の彼がほんとにひどくて、と。周りは初対面だから、うんうんって聞くよね。優しい男性ほど身を乗り出す。ここまでは何の問題もない。
問題はその先。去年よく来てくれてたサキさん、31歳。彼女は毎回、別のテーブルで、別の男性に、同じ元カレの話をしてた。最初は同情してた男性たちも、二回目、三回目と会ううちに変わっていく。会話の空気がズーンと沈んでいくのが、受付からでも見えた。それで次のイベントで彼女が言うわけ。誰も連絡くれない、やっぱ男ってそういうもんですよね、って。いや、ちがう、そうじゃないんだよ!そう叫びたいのを飲み込んで、笑顔のまま名簿にチェックを入れてた。言えなかったなあ、あの時。
サキさんに限らず、うちで見てきた被害者意識が強い女性は、かなり似てる。口癖は、私ばっかり。誘われないのも、連絡が遅いのも、友達を優先されたのも、丸ごと自分への軽視として翻訳される。謝らない、というより謝れない。謝っても必ず、でもあなたが、が後ろにくっついてくるから、謝罪が謝罪として機能しないの。
言葉にしないで拗ねるのも定番。連絡がほしいなら、連絡がほしいと言えばいい。なのに、察してくれないことそのものが新しい罪になる。会場発のデートの後の報告にも、この癖は出る。駅まで送ってくれなかった、が翌日にはもう、私のこと本気じゃない、に育ってる。送らなかった側の事情は、その時点で審理に入ってない。歴代の彼氏を聞くと、全員が加害者。三人続けてひどい男に当たる確率って、そんなに高くなくない?
周りに、相談という名前の裁判を開くのもよく見る。友達に、母親に、会社の同僚に、彼がいかにひどいかを説明しては賛同を集める。SNSの匂わせ投稿もセットで。本人は助けを求めてるだけ。けど、集まった味方の数だけ、彼氏は逃げ場をなくしていく一方でさ。
本当にひどい目に遭った人との見分け方は、実は簡単。話の中に自分の行動がひとつも出てこないかどうか。傷ついた人の話には、こうすればよかった、が混ざる。被害者意識が強い人の話は、最初から最後まで自分が観客席にいる。
ひとつ付け加えると、この性質は女性だけのものじゃない。被害者意識が強い彼氏、という相談も会場では負けないくらい聞く。女性の方が周りに話す形で表に出やすいぶん、目につきやすいだけ、かな。
なぜそうなる?被害者の席に座り続ける心理と原因
意地悪でやってるわけじゃない。ここは何度でも言いたい。
被害者の席って、座ってみると居心地がいい。自分は悪くない、相手が悪い。そう決めてしまえば、痛いところを直視しなくて済む。伝え方が雑だったとか、そもそも相手を見る目がなかったとか。心理学には二次利得っていう言葉があってさ。ある役割に居続けることで手に入る楽さのことなんだけど、まさにこれ。責任を負わなくていいし、周りは心配してくれるし、彼氏は罪悪感で動いてくれる。実際、二次会で愚痴を話してる間の表情は、悲しそうというより、どこか満たされてる。得しかない席に見えるでしょ?その代わり、自分の人生のハンドルをそっくり他人に渡すことになる。
もうひとつ、根っこにあるのが見捨てられ不安。愛着理論でいう不安型のタイプは、相手の些細な反応を見捨てのサインとして拾ってしまう。返信が遅いだけで、もう飽きられた、と体が先に反応する。責めてるように見える言葉の中身は、たいてい、私を見て、なんだよね。攻撃は、愛情確認が失敗した形。責められた側がどれだけ論理で答えても噛み合わないのは、そのせい。
育ちの話も避けて通れない。ミホさんという29歳の常連さんが、あるとき二次会でぽろっとこぼした。うちの母、私が小さい頃からずっと、私ばっかり損してるって言ってた人なんです、って。(あ、口癖が一緒だ)思わず顔に出そうになって、慌てて口をつぐんだ。お母さんは父親にも、近所にも、テレビの中の人にまで、いつも損をさせられてたそう。親の不満の言い方を、子どもは方言みたいに覚える。条件付きでしか褒められなかった家だと、動いて失敗するより動かずに不満を言う方が安全。その学習が、恋愛にも顔を出すし。
それから、過去に深く傷つけられた人も少なくない。モラハラ気質の元カレがいた、とか。その傷は嘘じゃない。ただ、その時に手に入れたレンズが曲者で。自分は傷つけられる側だっていう見え方が、次の相手を見るときにも外れなくなってる。話としては単純なのに、レンズを外すのが本人には何より怖い。
付き合うと疲れる理由。優しい人ほど削られていく仕組み
ユウキさんの話に戻る。
付き合い始めの頃、彼は彼女の元カレの話を聞いて、俺がこの人を守ろうって決めたらしい。わかるわ、その感じ!うちの会場でくっつくカップルの何割かは、この救済モードから始まる。でさ、心理学にカープマンのドラマ三角形っていうモデルがあって。被害者、迫害者、救済者の三つの役が、時間とともに順番に入れ替わるって話。ユウキさんはこれをそのままなぞってた。
救う側だったはずの彼が、半年もするとある日突然、わかってくれない人、に格下げされる。デートの店選びでも、記念日でも、LINEの句読点ひとつでも、気づけば彼が加害者の椅子に座らされてる。土日は彼女の機嫌のメンテナンスで消えてたって。結局、喧嘩は彼が謝って終わる。なのに何に謝ったのか説明できない。あれって、自分の感覚が信じられなくなっていく過程なんだよ。ガスライティングとまでは言わないけど、近いことは起きてる。
いちばんしんどいのは、誰にも話せないこと。友達に言えば彼女の悪口になるじゃん、って彼は言ってた。(そうやって一人で抱えて、二次会で初対面の私に話してるんだよなあ)胸の奥がキュッとなった。味方を集められる彼女と、愚痴ひとつ言うにも罪悪感が先に立つ彼。エネルギーの収支が合うはずがない。
なので、疲れたと感じてる時点で、あなたが冷たい人だとは私には思えない。少なくとも、しんどさに気づくこと自体は裏切りじゃないよ。判定はそこから始めていい。
対処法。効く関わり方と、やってはいけない対応
まず、反射で謝るのをやめる。これが、やってみると難しい。
謝れば場は収まる。でも収まるたびに、彼女の中で、やっぱり悪いのはあなた、が一本ずつ積み上がっていく。逆に論破しようとするのも悪手。正論をぶつけられた被害者は、もっと深く被害者になるだけだから。
うちでうまくいってるカップルがやってるのは、気持ちだけ拾って、解釈は返すやり方。辛かったんだね、までは受け取ってあげてほしい。その上で、でも私はそのつもりじゃなかった、と自分側の事実を置くの。責めた責められたの話にはしない。じゃあ次どうする?に会話を移していくわけ。その言い方だと話せないから、いったん時間を置こう、と線を引ける人は強い。線を引かれた瞬間に泣いたり怒ったりするかもしれないけど、そこで折れると振り出し。
スタッフの対応も、やってることは変わらない。連絡が来ないって言われたら、まず、来なかったのは誰から?と事実をひとつだけ確認する。この一手で、話が主観から出来事に戻る。
変わる可能性があるかどうかは、落ち着いてる時の一言で見える。喧嘩の翌日、私も言い過ぎた、が一回でも出る人なら、望みはあるよ。翌日も、翌週も、蒸し返しとあなたの罪状の再確認しか出てこないなら、その椅子は溶接されてる。そこから先は本人が降りようと思わない限り、外側からは動かせない。
別れるかどうかも、相手より自分の変化で測る方が早い。友達に会う回数が減った。謝罪が習慣。自分の記憶より、彼女の記憶を信じるようになってきた。この三つが揃ってたら、私なら離れることを考える。切り出すときは短く、反論せず、彼女が周りに何を話しても訂正しに行かない。口を挟んだ瞬間に、また迫害者の役に戻されるからさ。
私のことかも、と思った人へ。手放していくステップ
被害者意識のやっかいなところは、自分では気づけないこと。指が止まった時点で、もう別のステージに入ってる。ここで、私って最悪じゃん、って自己嫌悪に走るのがもったいない。自己嫌悪って、その席の隣にある予備席みたいなもんで。座り心地は大差なし。
ミホさんがやったことを書く。
最初にやったのは、口癖を捕まえること。私ばっかり、って言いそうになった瞬間に、心の中で数える。それだけ。一週間で十四回だったらしい(笑)。次に、手帳のページを縦に割って、左に事実、右に解釈を書いた。返信が六時間なかった、が左。軽く見られてる、が右。認知行動療法で使われる基本のワーク。右の欄がどれだけ盛られてるかを自分の字で見ると、意外と冷める。
三つ目が、してほしい、を口に出す練習。拗ねる代わりに、今週は一回電話したい、と言う。本人いわく、これが一番恥ずかしかったって。(言ったら断られるかもしれないじゃん…)って最初は震えてたんだって。まさか一発で通るとは思ってなくて、その拍子抜け感が、彼女を一段ずつ変えていった。
四つ目は、謝るときに、でも、を付けない。付けそうになったら文を切る。五つ目は、被害者の席から降りる怖さを認めるやつ。降りたら誰も守ってくれない気がする。その感覚は不安型愛着そのものだから、消そうとしなくていい。怖いままでいい。六つ目、過去の生傷は、恋愛の中で治そうとしない。ミホさんはここでカウンセリングに通い始めた。恋人はセラピストじゃないし、その役をやらせた恋は長くもたない。七つ目は、いま彼氏がいるなら、直そうとしてることを一度だけ言葉で伝える。監視役じゃなく、変化を見届ける人になってもらうためにね。
彼氏側でこれを読んでる人は、この七つを彼女に突きつけないでね。本人が自分で読んで、自分で止まるのとは、まるで違う結果になるから。
半年後、彼女はうちのイベントで知り合った人と付き合い始めた。すごいのは付き合ったことじゃない。喧嘩した翌日に、私の伝え方も雑だったかも、って本人から言えたこと。そのLINEのスクショを見せてもらった時、正直ちょっと泣きそうになった(泣)。あの二次会で口をつぐんだ私の代わりに、彼女が自分で椅子から立ち上がってた。
席から立ち上がった人は、会場にいればすぐ区別がつく。愚痴じゃなくて、次の話をしてるから。ユウキさんは先月、久しぶりに顔を出してくれた。まだ誰とも付き合ってないけど、別れた頃の自分を責めるのはやめたって。それで、もう十分すぎる。

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