イベントの片付けをしていたら、常連の女性がひとり残っていた。二十代後半、いつも最後まで残って笑っている人。積み上げた紙コップを抱えたまま、彼女がぽつりと言ったんだよね。
これって、脈ありだと思いますか。
相手は同性の友人だと聞いて、これは長くなるやつだと思った。パイプ椅子を二脚だけ戻して、閉館ぎりぎりまで話した。
彼女が挙げてくれた根拠は、目が合う回数、返信の速さ、二人で会う頻度。どれも心当たりのあるものばかり。でも、その全部を足しても答えは出ない。同性の場合、友情と恋愛のあいだに引かれた線が、人によってまるで違う場所にあるからさ。
そもそも、この悩み、周りに聞ける相手がいないという事実がある。そこがいちばん苦しいところなんじゃないかな。
数を数えるほど迷子になる
異性が相手なら、判断はまだ楽なほう。友達にはしないことをされたら手がかりになるし、世の中に手本もあふれてる。
同性だと、その基準線が消える。女性同士なら腕を組むのも、好きだよと言うのも日常のうち。男性同士は、そもそも触れる機会自体が少ない。同じ行動でも重さが正反対なわけ。
イベントの現場で何百組の距離感を眺めてきて、ようやく腑に落ちたのがここ。サインは足し算じゃないんだよね。比較なの。その人が、ほかの同性の友人には絶対しないことを、あなたにだけしているか。ほぼそれだけ。
心理学でも、好意は行動そのものより、相手を特別扱いする度合いに表れやすいとされている。誰にでも優しい人の優しさは、情報としては薄い。逆に、普段そっけない人が自分にだけ会話を続けるなら、そっちのほうがずっと濃い。
数える前に、片づけておきたい二つのこと
ひとつめ。その気持ちは恋なのか。
これ、聞くと怒られそうなんだけど、現場では本当に多い。憧れ、尊敬、依存、孤独の埋め合わせ。全部、恋にそっくりの顔をして近づいてくる。目安になるのは、相手が幸せそうにしているのを見たときの胸の動きかな。誰かと付き合ったと聞いて、よかったねと素直に思えるなら憧れ寄り。ざわっと冷たいものが落ちてきたら、恋の側にいる。
ふたつめ。相手は、そもそも同性を好きになりうる人なのか。
異性愛が前提の恋では発生しない問いだよね。ここを飛ばしてサインだけ数えても、永遠に着地しない。手がかりは日常に散らばってる。恋愛の話題で、相手が付き合った人の性別をぼかす癖があるか。同性愛を扱った作品や芸能人の話題に、どんな温度で反応するか。断定はできないよ。それでも、この二つを先に見ておくと、あとの読み取りの精度が変わる。
女性同士は、引き算で読む
女性同士がややこしいのは、友情の表現と恋愛の表現がほとんど同じ形をしているから。手をつなぐ、ハグする、一緒に寝る、好きと言う。判断材料にならない。ノイズが多すぎるの。
うちのイベントで知り合った二人組がいてね。片方が三年間ずっと脈ありだと信じていた根拠が、毎晩の長電話だった。ところが本人に聞いたら、その子は友達五人に同じことをしていた。(うわ…)って顔をしてたのを、今でも覚えてる。
だから引き算する。誰にでもやっていることは、ぜんぶ引く。残ったものだけを見る。
残りやすいのは、扱いの差。グループでいるとき、あなたの発言にだけ体ごと向く人っている。恋愛話の避け方も出やすいよ。好きな人いるの、と聞いたときに、そらすでも笑ってごまかすでもなく、ほんの一拍だけ止まる。あの間、けっこう正直なんだよなあ。
二人きりを作りに来るかどうかも見ておきたい。四人で飲んだあと解散の流れになったところで、もう一軒行かない、と言い出すのはたいてい同じ側の人。偶然が三回続いたら、それは偶然じゃないっしょ。
嫉妬の出方も分かりやすい。彼氏の話をしたときに、応援でも冷やかしでもなく、質問が細かくなる人がいる。どこで会ったの、週に何回会ってるの。あれは心配じゃなくて確認。
男性同士は、一発の重みで読む
男性同士は逆になる。サインの数がそもそも出にくいぶん、一つひとつが重い。
いちばん難しいのがノリとの区別。肩を組む、下ネタで絡む、酔って抱きつく。あの手のスキンシップは場のじゃれ合いとして起きることが多くて、好意の証拠にはならない。むしろ本気の相手には、人前でそれをやらない人が多い。ここ、逆転してるから気をつけてね。
見るべきは、二人きりになったときの質。バーベキューに毎回来ていた男性が言っていた。あいつ、大人数だと俺のこと雑に扱うのに、二人になると急に敬語っぽくなるんですよ、と。それ、たぶん緊張だよ(笑)。
自己開示の深さも手がかりになる。仕事の愚痴は誰にでもこぼす。でも家族の事情や、過去にうまくいかなかった恋の話まで出てくるなら、その人は距離を詰めにきてる。自己開示は信頼と好意の両方に比例して深くなるとされていて、これは現場の実感ともよく合うんだよね。
誘い方も見ておくといい。みんなで行こう、じゃなくて、今度あの店行きません、と名指しで来るか。予定を合わせるためにどれだけ手間をかけているか。男性同士で二人で会う口実を作るのは、思っている以上に面倒くさい。それをやってるなら意味がある。
視線が合う時間も、男性同士では長くなりにくい。ふっと目が合って、相手が先にそらさない場面が続くなら、その一回は女性同士の十回ぶんくらいの情報量がある。
連絡の読み方は、速さより形
返信が速い、は弱い材料。夜勤明けの人はいつでも即レスだし、生活リズムの話でしかないことが多い。
見たいのは形のほう。話題が自分から生えてくるか。あなたが振った話をそのまま拾って終わるのか、そこから相手が別の話を足してくるのか。後者が続くなら、会話を終わらせたくない人がそこにいる。
深夜に届く長文も、意味が変わる。昼間の連絡は用件。夜の連絡は、聞いてほしいという合図に近い。
勘違いしやすいもの
親切と好意は別物。これは何度も見た。
誰にでも面倒見のいい人は、あなたにも面倒見がいいだけ。悩み相談に乗ってくれるのも同じで、相談される側は好かれていると感じやすいけど、実際は逆のことすらある。頼られる側って、相手を保護対象として眺めていることがあるんだよ。
確かめたいなら、告白より先にやることがある
いきなり伝えるのが怖いのは当然でしょ。同性の場合、告白がそのままカミングアウトになる。フラれるだけでは済まないことがあるから。
だから段取りを踏む。まず、同性愛を扱った作品の話を軽く置いてみる。拒否なのか、無関心なのか、思いのほか詳しいのか。ここで一段見える。
次に、二人で過ごす時間を少し伸ばしてみる。夜になっても相手が終電を気にしないなら、それも情報。
そのうえで、相手が秘密を扱える人かを見ておきたい。他人の話をどう扱っているか。誰かの事情を面白おかしく回す人には、まだ渡さないほうがいい。告白していいかより先に、この人は守れる人かどうか。順番はこっち。
伝えると決めたなら、断られたあとの逃げ場も先に確保しておくこと。同じ職場、同じ学校、同じ友人グループ。逃げられない場所ほど慎重にね。
脈なしだったとき
同性の失恋は長引きやすい。周りに話せないぶん、気持ちがぐるぐる回り続けるから。友達だった時間が長いほど、失恋なのか喧嘩なのかも曖昧で、区切りがつかないままになる。
イベントに、五年片思いをしていた人が来ていた。相手は異性愛者の親友。距離を置くと決めるまで三年かかったと言っていた。今はその人、別の相手と穏やかにやってる。あのとき止まってよかったです、と笑ってたなあ(泣)。
答えを急がなくていいよ。ただ、待つと決めるなら、いつまで待つかだけは自分に約束しておいたほうがいい。期限のない片思いは、恋というより習慣に変わっていくからね。

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