イベント後の打ち上げで、30代の男性がグラスを置いて声を落とした。
彼女のいびきが可愛くて仕方ないんです、これって変ですかね、と。
え、惚気?それとも相談?
社会人サークルを運営していると、恋の相談が次々に舞い込みます。いびきの話は可愛いと目を細める彼氏がいれば、眠れなくて冷めたと打ち明ける彼氏もいる。聞かれてしまったと青ざめる彼女も、もちろん。
彼女のいびきを可愛いと感じる男性の本音
無防備な寝息に、信頼されている実感がわく
打ち上げの彼に、どんな音なのか尋ねてみた。
すぴすぴと、控えめに鳴るらしい。炊き上がる前の炊飯器が蒸気を逃がす、あの音に近いそうです。
比喩が家庭的すぎて、聞いていて照れるんだが?
起きている間、彼女はその音を誰にも聞かせない。聞けるのは、隣で眠ることを許された人だけ。
合鍵を渡されたような気分になる、と彼は笑う。
弱い部分を見せ合うほど親密さが深まることは、自己開示の研究でも知られている話。寝息は、言葉を使わない自己開示なんだよなぁ。
本人に見せるつもりがないぶん、受け取る側の胸に響く。
変かどうかで言えば、ちっとも変じゃないよ。同じ話を、何人もの男性から聞いてきたから。
しっかり者ほど、いびきが可愛く映る
可愛いと語る男性の彼女には、似た傾向が見えてきます。
仕事ができる、予定の管理がうまい、人前で隙を見せない。そんな人が、夜だけ口を開けて寝ている。
この落差にやられるんだって。
バーベキューの買い出しを仕切っていた女性がいます。その彼氏も同じことを言っていた。
昼は指示を飛ばす声、夜は小さな寝息。両方を知っているのは自分だけ。そこがたまらないと力説された。
心理学では、プラットフォール効果と呼ばれています。有能に見える人が小さな失敗をすると、好感がかえって上がる現象のこと。
コーヒーをこぼした優等生に親しみがわく、あれと同じ。
裏を返せば、いびきひとつで評価が落ちる心配は薄いでしょ。
日中の彼女をよく知る彼氏ほど、夜の音を愛おしがる。何組も見てきて、そこは揺るがなかった。
もちろん、どの彼氏も同じ反応をするとは限らないけれど。
可愛いと言う男性が口にしない、もうひとつの気持ち
可愛いと話す男性たちには、共通する癖がある。
笑って語ったあと、少し真顔になるんです。息が止まって見える夜があって、と続くことも珍しくない。
愛おしさと心配が、同じ引き出しに入っている感じかな。
口に出しにくい本音も、その奥に隠れている。
可愛いと感じられる自分に、安心しているんだよね。
(寝姿まで好きなら、この気持ちは本物だろう)
そうやって、自分の恋心を確かめる材料にしているわけ。
だから彼氏の可愛いに、お世辞の成分はほぼ入っていない。褒めなくても済む場面で、わざわざ言葉にしているのだから。
可愛いが冷めるに変わる分かれ目
音の大きさより、眠れなかった夜の数
冷めたと話す男性にも、何人か会ってきました。
意外と、音量そのものを理由に挙げた人は少ない。出てくるのは翌朝の話ばかり。
会議で頭が回らなかった、運転中にまぶたが落ちかけた、とかね。
数を数えたことはないけれど、同じ訴えを何度も耳にした。
嫌いになったわけじゃない、ただ眠りたかっただけ。そう話す顔は、どこか申し訳なさそうでした。
寝不足が続くと、感情のブレーキが利きにくくなる。睡眠の研究で繰り返し確かめられてきたことです。
昨日まで愛おしかった寝息が、ある晩から騒音に聞こえはじめる。彼女は何も変わっていないのに…。
変わったのは、彼の残り体力のほう。
付き合いたての頃は、眠れなくても嬉しさが勝つもの。旅行や同棲で連泊が増えたあたりから、話が違ってくる。
ゴォォと響く夜が、週に何度あるか。冷めるかどうかは、その回数で決まると私はにらんでいます。
伝えたあとの、彼女の反応
ふたつめの分岐点は、伝えたあとに訪れる。
ある男性は、勇気を出して彼女に打ち明けた。返ってきたのは、しょうがないじゃん、のひと言。
(あ、俺の寝不足はどうでもいいんだ)
その瞬間に熱が引いた、と彼はつぶやいていたな。
正反対の場面も見ています。
別の女性は指摘されて真っ赤になり、翌週には耳鼻科を予約した。彼氏は、その姿に惚れ直したんだとか(笑)。
いびきが止まったかどうかは、聞きそびれた。止まらなくても、彼の気持ちは変わらなかったはず。
男性が見ているのは、音とは別のところ。自分の困りごとに、彼女がどう向き合ってくれるか。
好きなのにイライラする夜があっていい
冷めたのかもしれない、と自分を疑う男性にも会いました。
寝顔は愛おしいのに、午前2時の音には腹が立つ。そんな自分が薄情に思えて、誰にも言えなかった、と彼。
彼女を嫌いになったのか、と布団の中で自問する夜が続いた。
話を聞くかぎり、彼の愛情は減っていなかった。足りていなかったのは睡眠時間のほう。
空腹のときに不機嫌になるのと、仕組みは変わらないよね。
イライラを、気持ちが離れた証拠と決めつけなくていい。体が休ませてくれと訴えている合図だと受け取れば、罪悪感はだいぶ軽くなる。
彼女のいびきで眠れない彼氏ができること
我慢を重ねるほど、好きな気持ちまで削れていく
正直言って、私は昔この相談に間違った答えを返していた。
我慢できるうちは言わなくていいんじゃない、なんて。
あの時の自分を、叱りに行きたい(泣)。
そう助言した男性は、半年後の夜中3時に爆発しました。うるさくて無理、と彼女を揺り起こしてしまったんです。
眠いし、言えないし。板挟みのまま朝を迎える日々だった、とあとで聞いた。
我慢は、ひびの入ったスマホ画面を使い続けるのに似ている。見えているうちは平気でも、割れ目は毎日すこしずつ広がるから。
寝顔にため息が出はじめたら、もう黄色信号だよ。
黙っている優しさは、賞味期限つき。
傷つけない伝え方は、朝ではなく昼間に
伝えるなら、起き抜けは避けたい。寝起きの指摘は、すっぴんに突然ライトを当てるようなものだから。
夜中に起こして言うのは、もっと酷くない?
うまくいった人たちは、昼間の散歩や食事の席を選んでいました。
言葉の選び方にも工夫がある。カウンセリングで使われる、アイメッセージという話し方。
君がうるさい、ではなく、自分を主語にして気持ちを渡す方法です。
「最近あまり眠れてなくて、相談したいことがあるんだ」
「寝てるとき苦しそうで、心配になってさ」
この順番で切り出した男性は、彼女から感謝されたそう。
可愛いと困っているは、同時に言っていいんですよ。ふたつとも、嘘のない気持ちだもの。
録音を突きつける、友人の前で笑い話にする。この二つは、現場で見てきた失敗の常連。
交流会で彼女のいびきをネタにした彼氏の隣で、彼女の笑顔が固まっていた。あれは見ていてつらかったわ。
ふたりが揃って顔を出すことは、その後なくなりました。理由は聞けずじまい。
今夜から試せる小さな工夫
話し合いの前に、自分の側でできることもある。
耳栓は、いちばん手軽な味方。彼女より先に眠りへ落ちる作戦も、試した人の評判がいいよ。
仰向けだと舌が喉の奥に下がり、音が大きくなりやすい。抱き枕を渡して横向きを促したら、静かな夜が増えたと聞きました。
扇風機や空気清浄機の運転音を流しておくのも手。一定の音が寝息の波をならしてくれる、というのが試した男性の説。
お酒を飲んだ日は喉の筋肉がゆるむので、いびきも育つ。飲み会の夜だけ別々に寝る、と決めたカップルもいたなぁ。
冷たい対応?私も最初はそう疑った。
むしろ翌朝の機嫌が良くなって、会話が増えたと報告を受けています。
彼氏にいびきを聞かれた、指摘された彼女へ
可愛いよは本音か、気遣いか
初めてのお泊まりの翌朝、いびきかいてたよ、可愛かった、と告げられた。
そう話す20代後半の女性は、スマホを握りしめたまま。ドキッとして、朝ごはんの味がしなかったと苦笑い。
可愛いって何。気を遣われただけじゃないの?
その疑い、痛いほどわかる。
見分ける手がかりは、言葉より行動にあります。
次のお泊まりを、彼のほうから提案してくるかどうか。いびきの話題をふたりきりの場面に限ってくれる人なら、安心していい。
からかうときの目がやわらかければ、なおさらだよ。
彼女の場合、翌週には彼が旅行の計画を立ててきたとのこと。答え、出ているじゃんね!
気遣いが混ざっていたとしても、悪い話じゃない。傷つけたくない相手にしか、人は言葉を選ばないから。
翌朝の返し方で、空気は変わる
指摘された朝、どう返すか。
謝り倒さなくて大丈夫。「ごめんね、眠れた?」と相手の睡眠を気づかえば足りる。
ひどい夜は教えてね、と添えられたら満点。
開き直りと卑下は、どちらも彼を黙らせてしまう。
女として終わってる、と泣かれた男性がいる。責めたつもりがないのに、加害者になった気分だった、とうなだれて。
恥ずかしさを抱えたまま、笑って受け取る。難しいけれど、これができる人はマジで強い!
何も言ってこない彼氏に、不安を募らせる女性もいます。
気づいていて黙っている男性は、思いのほか多い。自分から軽く尋ねてみたら、彼は待っていたように話しだした。そう教えてくれた女性は拍子抜けした顔。
次のお泊まりが怖くなったら
一度聞かれてしまうと、次の夜が怖くなる。
彼が寝つくまで起きていようとして、朝まで天井を見つめていた人もいる。翌日のデートは、あくびを噛み殺すのに必死だったとか。
本末転倒だよねぇ。
うまく切り抜けた人は、寝る前に自分から口にしている。
「疲れてる日は鳴るかも。うるさかったら鼻つまんでね」
先に笑いへ変えてしまえば、隠すものがなくなる。その夜の彼女は、朝まで一度も目を覚まさなかった。
隠し通す夜より、打ち明けた夜のほうが、ふたりともよく眠れるんじゃないかな。
いびきの話ができるふたりは長く続く
寝室を分けても仲のいいふたり
イベントで出会って、同棲を始めたカップルがいます。平日は別々の部屋、週末だけ同じベッドで眠る暮らし。
最初に聞いたとき、まさか不仲なのかと身構えた。
全然違いました!
平日によく眠れるから、週末は相手に優しくできる。それがふたりの言い分。
寝室を分けることは、愛情が減ったしるしにならない。眠りを守る方法を、ふたりで選んだだけ。
同棲や結婚の前に、眠り方の話をしておく
同棲を控えた男性から、いびきが理由で踏み切れないと相談されたことがあります。
好きなのに決められない。その迷いを彼女に話せていないことのほうが、私には気がかりだった。
部屋を探す前に、眠り方の話をしてみたらどうかと伝えました。寝る時間、部屋の明るさ、エアコンの温度。いびきは、その並びの一項目にすぎない。
ベッドを二台にするか、寝室を分けられる部屋にするか。選べる道を並べてみたら、彼の表情がゆるんだのを覚えています。
後日、引っ越し先は2LDKに決まったと教えてくれた。
いびきは、ふたりの間に置かれた体温計
結局、いびきの音だけが原因で別れたふたりを、私はまだ知らない。
壊れるときは、言えなかった不満か、受け取ってもらえなかった気持ちが先にある。
いびきは、ふたりの間に置かれた体温計みたいなもの。話題にしたときの返事で、関係の温度が見えてくる。
可愛いと笑える夜も、眠れなくて困る夜も、どちらも本当。両方を口に出せる相手となら、隣で眠る時間は長く続いていく。

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