二次会の帰り道、駅までの五分で打ち明けられた話があります。
先月のイベントで知り合った人のことを考えると、胸のあたりがぎゅっと縮む。息も浅い。夜中に目が覚めて、ご飯も喉を通らない。そう話してくれたのは、三回目の参加だった二十八歳の会社員、香織さん。
これって病気ですかね、と笑いながら聞かれました。私は気の利いた言葉が一つも出てこなかった。
社会人向けのイベントサークルで恋で胸が苦しいと相談してくる人は、正直言って毎月います。
恋で胸が苦しくなるのは異常じゃない
会場で見てきた、胸が苦しい人の共通点
苦しいと話す人を思い返すと、共通点は恋の熱量じゃありません。先が見えているかどうかで、苦しさの強さが決まっている気がします。
相手が自分をどう思っているのかわからない。次にいつ会えるのかもわからない。返信が来るのかどうかさえ、はっきりしない状態。宙ぶらりんの時間が長いほど、胸の締め付けは強くなるんですよね。
逆に、告白してふられた人は、意外とすっきりした顔で次の回に来ます。結果が出ると、身体は落ち着く。切ないけど、何度も目にしてきた光景です。
脳の中では何が起きているのか
好きな人を思うと胸がドクンと鳴るのは、比喩じゃなくて身体の反応です。
恋の初期にはドーパミンやPEAと呼ばれる物質が増えます。脳がご褒美を待ち続ける状態に入る、と言われているんですね。返信が来るかもしれない。次は会えるかも。その期待が続く間、身体はずっと軽い興奮モード。同時に、心を落ち着かせるセロトニンは減りがちで、不安がぐるぐる回りやすくなる。
不安が続けば自律神経が張りつめます。心拍が上がり、胸が締め付けられるように感じる。恋煩いで食欲が落ちたり眠れなくなったりするのも、この延長線上の話。
胸の苦しさは、気持ちが弱いから起きるものじゃない。脳が全力で恋をしている証拠、くらいに受け止めて大丈夫。
苦しさの強さは本気度と比例しない
これだけ苦しいんだから本気の恋に違いない。そう思いたくなる気持ち、痛いほどわかります。
でも会場で見ている限り、話は少し違います。苦しさが映すのは、本気度より不安の大きさ。同じくらい相手を想っていても、見通しが立っている人はそこまで苦しまない。苦しさは恋の深さを測る目盛りじゃなくて、不安の目盛りなんです。
だから苦しさが減ってきても、気持ちが冷めたわけじゃない。安心できる材料が増えただけ。ここを混同すると、わざわざ不安を探しに行く恋になってしまいます。
胸が苦しくなる恋には型がある
苦しさが押し寄せるタイミングを思い出すと、自分の型が見えてきます。相手を見た瞬間に来るなら片思い型。幸せな時間の直後に来るのは両思い型で、通知が鳴らない夜に来るなら会えない型です。ふとした曲や匂いで急に来る人は、未練型の可能性が高いかな。
片思いの苦しさは一喜一憂から生まれる
相手の視線ひとつ、返信の速さひとつで、気分の天気がころころ変わる。イベント会場でも、よく見かける姿。
三十一歳の営業職、翔太さんのケース。気になる女性が、別の男性と笑っていた。それを見た瞬間、突然胸がずーんと重くなったんだとか。まさか自分がそこまで動揺するとは、と本人も驚いていて。(でさ、その顔、会場で私も見てたんだよね…)
片思いの苦しさは、相手の本心を確かめる手段がないところから来ます。だから花占いみたいに、相手のしぐさひとつで好きか嫌いかを勝手に判定してしまう。当たらない占いほど疲れるものはないでしょ?
両思いなのに苦しいのは失う怖さ
付き合い始めたのに胸が苦しい、という相談も少なくないんです。
会場で出会って交際を始めた、二十六歳の女性がいます。幸せなはずなのに、彼の返事が遅いだけで泣きそうになる、とこぼしていました。手に入った瞬間から、失う可能性が現実味を帯びる。幸せの大きさが、そのまま怖さの大きさに化けてしまう。
未練の苦しさは不意打ちで来る
失恋から半年たっても胸が痛む、という人もいます。
二次会のカラオケで元恋人の好きだった曲が流れて、席を外した男性がいました。三十四歳、普段は場を盛り上げる側の人です。思い出は、こちらの都合を聞かずに扉を開けてきます。この型だけは行動で解決しにくい。時間と新しい記憶で、少しずつ上書きしていくしかないんだよなぁ。
会えない時間の苦しさは別格
片思いでも交際中でも、いちばん胸が苦しくなるのは会えない期間です。
うちのサークルはイベントの間隔がだいたい二週間。会場で楽しそうにしていた人が、次の回では別人みたいにげっそり。話を聞くと、決まって会えなかった二週間のことを語り始めます。翔太さんもそうでした。この二週間の中身が、恋の苦しさの中心にあります。
会えない時間が一番苦しい理由
会えないと答え合わせができない
会っている時は、相手の表情や声のトーンで、なんとなく気持ちを読めます。読めるから安心する。
会えない間はその材料が全部消える。脳は情報が足りないと、足りない分を想像で埋め始めます。しかも不安な時の想像は、悪い方に傾きがち。あの時の反応、そっけなかったかも。私に興味ないのかも。頭の中で、ひとりきりの会議が延々と続く。
胸が苦しいのは、その会議が終わらないから。相手が嫌いになったからじゃない。
スマホが苦しさを倍にする
会えない間に相手のSNSを見に行ってしまう。既読がつくかどうかを何度も確認する。これで楽になった人を、私は一人も知りません。
翔太さんは、返事がない三日間に三通続けてLINEを送ったんです。そのまま相手は静かになった。送った直後だけ楽になって、五分後にはもっと苦しくなった。あとで本人が漏らした言葉です。わかる、わかりすぎる(泣)。
画面をスクロールするたびに胸の奥がざわざわする。あれは相手の投稿が原因というより、自分で不安に薪をくべているのに近い。
相手も同じくらい苦しいのか
会えない日々でいちばん知りたいのは、相手の温度。自分だけが想っているんじゃないか、という片側だけの感覚が胸を締め付けます。
この話には、続きがあります。相手の女性が後日、別の回でぽろっと教えてくれました。返事の文面を三日間ずっと悩んでいた、と言うんです。書きかけの途中で三通目が届き、怖くなって返せなくなった。同じ三日間に、二人が同じように苦しんでいた。もったいなさすぎる!
会場で見る限り、温度差は本人が想像しているより小さいことが多い。ただし、それを確かめる方法は会って話す以外にありません。だから会えない期間の過ごし方が、恋の行方を左右します。
会えないと冷める、は半分ほんと
会えないと恋は冷める、とよく言われますよね。会場で観察していると、半分は当たっていて、半分は違う。
冷める原因は会えなかったこと自体ではなく、その間のやりとりが重かった時です。その一方で、離れている間に相手の中で自分の印象が育っていた人もいます。会えない時間は敵にも味方にもなる。分かれ目は、その期間に何をしたか。
会えない期間を、関係が進む時間に変える
連絡の頻度より、次に会う約束
この期間をうまく越えた人には、はっきりした共通点があります。次に会う日付を、早い段階で決めていたこと。
三十歳の看護師、美咲さんの相手は、知り合った翌週から二か月の海外出張。普通なら自然消滅コース一直線。出張前に彼女がやったのは、たった一つ。帰国したら連れて行ってほしい店があるか、と聞いて相手に選ばせること。会う日が決まった瞬間、二か月が耐えられる長さに変わったそうです。
未来に一本、目印の杭が立つ。それだけで苦しさは半分くらいになるんだと、あの時教わりました。二人は今、普通に付き合っています。遠距離の二人も同じ。次に会う日が空欄のままのカップルは、私の知る範囲でほとんど続いていません。
連絡の中身は近況報告より小さな共有
会えない間の連絡は、長文の近況報告になりがち。でも読む側には、正直しんどい。
うまくいった人の連絡は、驚くほど短い。前に話していた映画の予告を見つけたよ、とか。この前言ってたパン屋、行ってみた、とか。相手との会話の続きになっている一言。返事をしやすいし、返事が来なくても傷が浅い。
頻度は、相手のペースに合わせて少しだけ遅めがちょうどいい。返事がない日は、追いLINEをする代わりに別の予定を入れる。追いかけると逃げる、なんて古い言葉があります。イベントの現場では、これが恐ろしいほど当てはまる。
自分の予定を先に埋める
いつ誘われてもいいように、会えない二週間の週末を全部空けて待っていた参加者がいました。二十九歳の男性。再会した時、開口一番に出た言葉が、ずっと暇だったんですよ。相手の顔が一瞬曇ったのを、隣で見ていました。待っていた時間の重さが、丸ごと相手に乗っかってしまったわけです。
反対に、別の趣味や集まりで二週間を埋めていた人は違う。再会の場でふわっと余裕があって、話も弾む。
待つ時間を、自分の生活で埋める。恋のためというより、自分が壊れないため。結局それが相手にも魅力として伝わってしまうのだから、恋って不思議だなぁ。
今夜を乗り切る、五分でできること
息を吐く時間を長くする
胸が苦しい時は、呼吸が浅く速くなっています。四秒かけて吸って、八秒かけて吐く。吐く時間を長く取ると、身体を休ませる側の神経が働きやすくなります。
布団の中でこれを五回。それだけで、心臓のドクドクが少し落ち着く人は多いです。
スマホを別の部屋に置く
既読の確認は、寝る前にやることじゃない。寝る三十分前にスマホを別の部屋へ。それだけで夜の長さが変わる。地味だけど、これを続けられた人ほど顔つきが穏やかになっていきます。
身体を温めてから横になる
湯船にゆっくりつかる。温かい飲み物を時間をかけて飲む。締め付け感は緊張の反応なので、身体がゆるむと一緒にほどけていきます。冷えた部屋でスマホを握りしめている夜が、いちばん長い。
この苦しさはいつまで続くのか
終わり方は三つしかない
胸の苦しさが消えた人たちを見ていると、終わり方は三つです。恋が叶うか、区切りをつけて諦めるか、時間が経って慣れるか。
どれになるかは選べないけど、どれかには必ず着地する。永遠に続く胸の痛みを、私はまだ見たことがありません。期間は人によってばらばらで、数週間の人もいれば、半年かかった人も。
苦しい最中は永遠に思えるけど、翔太さんも半年後には別の人と笑っていました。あの時のしおれた顔、本人に見せてやりたい(笑)。
苦しい恋を、少し軽い恋に
苦しさの正体は、相手の気持ちがわからない時間の長さです。
楽になる道も、気を紛らわせることの先にはありません。次に会う日を決める。自分の予定を先に埋めておく。そっちのほうにあるんです。相手を中心に回っていた日々を、自分を中心に戻していくのが一番です。

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